明星/Akeboshi "a little boy"



『a little boy』 2019.6.27 release
1. Buckwheat field
2. a little boy
3. Beagle Bon Voyage
4. VET in the dream box
5. I used to..

Piano&Vocals / Akeboshi
Drums / Akira Kawasaki (mouse on the keys)
Bass / Katsuhiro Mafune
Cello / Seigen Tokuzawa
Trumpet, Flugelhorn, Flute / Daisuke Sasaki
Euphonium / Tomohiko Gondo
Violin, Fiddle / Emy Sakai
A.Guitar, E.Guitar / Kenji ''zelly'' Nagata

All Songs Written and Produced by Akeboshi
Mixing and Mastering : Suguru Hara, Akeboshi
Art Direction : Central67

CDのご購入はこちら


配信はこちら


tour「a little boy」
drums:川﨑昭(mouse on the keys)
trumpet:佐々木大輔、violin:酒井絵美

<東京>※SOLDOUT
2019年7月5日(金)表参道GROUND
OPEN 19:15 / START 20:00

<京都>
2019年7月19日(金)京都・磔磔
OPEN 18:15 / START 19:00

<名古屋>
2019年7月21日(日)名古屋CLUB UPSET
OPEN 17:00 / START 17:30

<東京(追加公演)>
2019年8月10日(土)渋谷7th FLOOR
OPEN 17:30 / START 18:30

チケット発売中(追加公演は6/29発売)
各日前売¥4,000 / 当日 ¥4,500
(共に税込、ドリンク代別)


http://www.akeboshi.com/
©AKEBOSHI.COM
Interview >>English ver.

「意味のある音楽」――明星/Akeboshiは、以下のインタビューにて自分の作品をそんな風に語っている。約5年ぶりとなる新作ミニアルバム『a little boy』は、その言葉通りの、奥行きの深さを感じさせる作品だ。一つ一つの曲に、彼が人生の中で向き合ってきた死と喪失、そして次世代へと受け渡す希望の思いが込められている。ストリングスやホーンを配した壮大で鮮やかな曲調に乗せて、エモーショナルな物語が描かれている。彼が作品に込めたものについて、語ってもらった。(インタビュー/テキスト:柴那典)


意味のある音楽を世の中に出したい

――まずは、明星/Akeboshiとしてのアーティスト活動全般について聞ければと思うんですが、どういうカテゴリでご自分をイメージされているんでしょうか? たとえば「シンガーソングライター」という肩書きについては、どう思いますか?

明星:シンガーソングライターという肩書きにはあまりハマっていないと最初から思っています。どちらかと言うとサウンドメイクのほうが得意なので。確かにピアノ弾き語りのシンガーソングライターとしての活動もしてますけど、それはわずかな時間でしかなくて。自分のライブでは映像を使ったり、ループサンプラーやディレイを使って音の表現をしたりしています。それでも意味のある音楽を世の中に出したい気持ちはあるんです。なかなか曲も作れないし、時間もかかるんですけど、自分の名義で出す曲に関しては、やっぱり内容にもこだわっています。

――『a little boy』は前作から約5年ぶりの作品になりますね。その間にはCM音楽や映画音楽の制作もされていますが、そういった楽曲制作と自分の名義の作品の制作は、わけているものでしょうか?

明星:一緒ではないですね。まず完成させるスピードが違います。CMや映画は普段の自分の引き出しにない音楽をやる機会もあるし、いろんなジャンルの曲を分析したりもするので、すごく楽しいし、勉強にもなります。で、自分の曲のほうは、そういうことから影響を受けることもあるんですけど、ゼロから何かを作るときに「あれが格好いいから作ろう」みたいなことはないですね。自分から本当に出るものなのか、よく吟味します。何かしらの衝動みたいなものが、それも勢いのある衝動というよりも、じわじわとした衝動が固まってきたときに動き始めるというか。

――きちんとしたテーマやコンセプトありきで一つ一つの楽曲ができている。そういうタイプである、と。

明星:そうですね、はい。


今のテーマは「子供」ですね。子育てです。

――たとえばどんなイメージやモチーフが音楽になるんでしょうか。

明星:過去にはたとえば「旅」というテーマがありました。『Meet along the way』のときは、1ヶ月間、アイルランド、イギリスを放浪しながら、現地で出会った人たちに声をかけて、アルバムを作ったんです。アイリッシュパブのような場所でセッションしてる人に声をかけて、「レコーディング機材があるから、明日のお昼くらいにユースホステルに来てくれない?」と言って。ほぼ完成している曲を持っていって「ここにフィドル弾いてくれない?」とか「笛吹いてくれない?」みたいに声をかけて、アルバムを完成させたんです。当時はメジャーにいたんですけれど、そのときも世の中に出すんだったら意味のあるテーマがあったほうがいいなと思っていました。ただ、それは前のことで、今は「旅」をテーマにすることはないですけれども。

――では、今のテーマは?

明星:今のテーマは「子供」ですね。子育てです。今の自分にとってのライフワークのひとつだし、本当に子供が中心となっている。子供をモチベーションに作品が出てくるし、そこからいろんなテーマを考えます。

――なるほど。それがアルバムの『a little boy』というタイトルにも直結している。

明星:そうですね。

――制作にあたっては、そのテーマをどんな風にこの5曲に落とし込んでいったんでしょうか。

明星:1曲目の「Buckwheat field」はインストで、2曲目のイントロというか、このミニアルバムのオーケストラチューニングのような部分なんです。だから作っていたのは4曲なんですけど、4曲というのは、僕にとってまとめやすい単位なんですね。デビューのときから4曲単位で3枚の作品(『STONED TOWN』『WHITE REPLY』『Faerie Punks』)を出しているんですけど、4曲だとテーマがまとめやすいんです。


命を大切にしてほしいということを、子供にどう教えるか

――曲それぞれについても聞いていければと思います。まず表題曲の「a little boy」は核になるような曲であると思うんですが、この曲はリズムやアンサンブルがすごく仕掛けに満ちていますよね。ポリリズム的な作りになっている。このあたりは、どういう発想で出てきているんでしょうか。

明星:単純に、自分が音楽制作していくうえで楽しいものや好きなものというのは、リズムが単調じゃないものなんですね。普通に聴こえるけど普通じゃないポップスっていうのは、最初のデビューのときから考えていました。たとえば「Wind」は5拍子だけど誰も5拍子と気づかない、変拍子と気づかないような曲になればいいなと思って作ったんです。変拍子が好きでアカデミックに音楽を聴いている人というよりも、誰が聴いても心地よくて、それと考えずに変拍子を楽しめるような曲を作りたいという思いは最初からあったので。自然とそうなってしまうところはありますね。

――「a little boy」の楽曲のテーマについてはどうでしょうか。この曲にはどこか切ない思い、喪失感や死生観のようなものも感じられます。このあたりは、どういう風に曲のイメージが膨らんでいったんでしょうか?

明星:いま自分の息子が5歳と11歳なんですけど、長男のほうは精神的に独り立ちして、わりと自分でなんでも決めるようになってきたんです。だけど次男のほうは、たとえば道を歩くときも車に気をつけるように言ったり、まだ守ってやらないといけない。長男は守ってやらなくてもよくなって、自分で考えて遊びにいったり、一人で行動し始めたりするようになった。そうなると、自分である程度責任を持って生きて行くし、もし何か事故や事件に巻き込まれても、何もしてあげられないんだなって思って。そのときに、知り合い夫婦の息子が18歳でバイク事故で亡くなってしまった話を思い出したんです。もう何があってもしょうがないんだな、と。自分の手を離れていったなということを感じながら作っていった曲です。

――なるほど。ご自身の日常と、一つの事実と、想像の世界が地続きになって曲になった。

明星:そうです。

――「Beagle Bon Voyage」に関しても、そういう感じで生まれたんですか?

明星:そうですね。ビーグル号というのは、ダーウィンが世界旅行をした時に乗っていた測量船の名前なんです。僕はダーウィンにすごく憧れていて、本も読みましたし、2008年に上野の国立科学博物館でダーウィン展があったときも行きました。長男も生き物が好きで、ダーウィンに関するマンガや養老孟司さん監修の図鑑が昔から好きなんですよ(笑)。

――いい息子さんですね(笑)。

明星:それと、これは歌詞がヘリコプターの話から始まるんですけど、仕事場と直線距離の場所に息子が通う小学校があって。そこの上を米軍のヘリコプターが飛んで、とにかく僕の仕事を騒音で邪魔するんです。それがすごく腹立たしくて(笑)。そのときはちょうど北朝鮮がミサイルを飛ばして緊張があったときで、物騒だと思うこともあって。それが衝動ではありました。

――日常のなかで感じる、ちょっとした違和感や不穏さと、ダーウィンの来歴という事実と、想像力がもとになっているんですね。日常のことをそのまま歌うというよりは、それを寓話のようなストーリーにしている。

明星:そうですね。

――今回は特にそういう曲が集まっている感じがします。

明星:集まりましたね。CMや映画の曲を作っていることの反動なのかもしれないです。特にCMでは、そういう作り方ができないので。

――「VET in the dream box」はどうでしょうか。

明星:これは獣医の人の話がモチーフになった曲ですね。息子が生き物が好きで、将来生き物の研究者になりたいって言ったところから、ニュースを知って、そことつながっていて曲になりました。

――動物保護施設で働いていた獣医が、安楽死の薬を自分に注射して亡くなったというニュースが台湾であったそうですね。

明星:この獣医の人の人生を描いてあげれば、息子へのメッセージにもなるなと思ったんです。動物を助けようと思って獣医になったのに、殺処分が仕事になってしまった。そうなる可能性もあるよということですね。

――「I used to..」は、親しい人の死について描かれた曲になっています。前作『After the rain clouds go』の「曇り夜空」と同じく、10年前にレコーディングエンジニアの方が自死されたという大きな出来事をもとにしているということですが、そこにはどういう思いがあったんでしょうか。

明星:10年経って、自分でもこういう曲ができるとは思わなかったですけど、最終的に言いたいのは、なんとしても生き続けなきゃダメだよっていうことですね。辛いこともあるだろうけど、生きていると何があるかわからない。ただ、何があっても生き続けようっていう曲にはならずに、「忘れてしまいそうだ」「忘れてしまいたくないなぁ」って。こんなに思っている人でも、忘れちゃうのかもなということを考えたときに、こういう曲になりました。彼を思い出すきっかけが減るんですよね。それが大きな変化で、どうしようもないことなんだなって。そういうことから、やっぱり最後までがんばって生き抜いたほうがいいと思うようになりました。

――僕は42歳なんですが、やっぱりこの年になると、亡くなった友人や仲間は少なからずいるんです。忘れたくないと思いつつ、確かに記憶や日常からだんだん薄くなっていく。それは寂しさとともに思うことではあるので、この曲を聴いて「あぁ、そうだよな」って思いました。

明星:そうですか。ありがとうございます。そこで共感されるものかわからなかったし、「大丈夫かな?」という思いもあったんですけど。

――この曲が『a little boy』というミニアルバム、子供を一つの核にした作品に入っている意味合いはどういうところにあるんでしょうか。

明星:10年前は、ちょうど子供が生まれたときなんですよね。そこで僕も子育てに大きくシフトする変化があったので。で、命の重みというか、命を大切にしてほしいということを、子供にどう教えるかということを考えたんです。他人の命もそうですし、生き物を飼ったり、昆虫採集しにいったりすると、死はけっこう近くにあるんです。危険な目に遭うこともあるし、飼ってる生き物が弱って死んでしまうこともある。死についていろいろ考えたときに、息子に対して、他人の命を奪う、生き物の命を奪うっていうことに関しての話はよくするんですけど、自分の命を大切にするっていう話はなかなかする機会がないので。そういうテーマはひとつ、入っていてもおかしくないのかなと思いました。


どこにもハマりたくない

――ジャケットについても聞ければと思います。ファンタジックなテイストのイラストになっていますが、デザインを手がけているCentral67の木村豊さんとは、どういうイメージを共有していたんでしょうか?

明星:まず木村さんと出会ったのが、メジャーデビューのときのアルバム(『Akeboshi』)なんですけど、そのときに「こういうイメージで」って持っていったLPが2枚ありまして。ひとつは影絵みたいな、今のテーマの基になっているもので、Magnetというノルウェーのシンガーソングライターの『Last Day Of Summer』という12インチと、アーサー・ラッセルの『Calling Out Of Context』というアルバムで、チェロにカラフルな絵が描いてあるジャケット。そこから今の影絵のシリーズになっていったんです。そこからは統一感を求めてやっています。で、今回に関しては、ダーウィンをテーマにしているんです。

――ダーウィンがイメージを共有するときのツールになっていった。

明星:そうですね。ダーウィンが『進化論』を発表したときに、キリスト教界から揶揄されて、このジャケにあるような、オランウータンの胴体にダーウィンの顔が描かれた風刺画が新聞に載せられたことがあって。当時は貴族から「私たちが猿だったって言ってるバカがいるよ」みたいなことを言われていた、と。いまだにアメリカの一部の学校では、『進化論』を教科書に載せないという話もありますよね。そういう中でダーウィンも戦ったんだという話を知って、そういうところからも好きになっていったんです。

――わかりました。普段こういう質問をすることはあんまりないんですが、あえて聞いてみたいと思っていて。明星さんは、ご自身のジャンルやカテゴリって、どんなふうに捉えてますか?

明星:どこにもハマりたくないと思っているところはあります。アイリッシュとか、エレクトロニカとか、フォークトロニカとか、過去にいろんなジャンルで言われたときもあったんですけど、なんか、あんまり……逆にお聞きしたいくらいです(笑)。

――ちなみに、ここ最近で刺激を受けたり、これはいいなと思う音楽家は?

明星:最近聞いた中では、FKJやトム・ミッシュも好きですけど、もともとボン・イヴェールの世界観はすごく好きで。ブラスの使い方とかは、ボン・イヴェールを意識して作ってます。ああいう声は出ないですけど。あと、真鍋ちえみさんという80年代の日本のテクノアイドルを、イギリス人の友達から教えてもらって聴いたりしましたね。

――なるほど。僕自身、明星さんの音楽をジャンルやカテゴリでくくることができる感じはないと思うんです。ただ、この『a little boy』という作品についての話を聞いていると、サウンドや音楽性ということより、言葉の本質的な意味での「フォーク・ミュージック」かもしれないと思いました。

明星:物語っていう意味ですよね、フォークって。folktale, folkloreって言葉がありますし。

――そうですね。物語でもあるし、本来的に、親が子供に歌って聴かせる歌から始まっているようなものである。そう考えると「子守唄」っていう言葉が、この作品のジャンルにはいちばん近い気がしました。そういう人生と生活に根付いた音楽が、リリースされてマーケットに届いている、という。

明星:そうですね。あんまり市場調査みたいなのはしたことないですけれど。データを見ると、意外とアジアや南米に聴いてくれてる人がいるんだっていうのは参考にはなっています。英語で歌ってる意味も、海外の人たちに届けばいいなっていうところにあったりもするんですけど。でも、そういうことは、基本的にはできあがってからの話ですからね。

//